濃い霧が風を追って山を越える所、伽耶山国立公園

 

「星」と、故郷を表わす「州」、文字どおり慶尚北道の星州は「星の故郷」だ。実際に星州の地勢は高い所から見下ろせば星の模様に似ているという。ところで星州を星のように輝かせる所は別にある。海抜1,443mの伽耶山だ。伽耶山の最高峰の七仏峰に上がって濃い霧が伝える登山の醍醐味を再確認してみる。
文と写真:旅行作家 イム・ウンソク

霧がぐるぐる渦巻く伽耶山国立公園

伽耶山国立公園は慶尚北道の星州と慶尚南道の陜川にまたがっている。最高峰である七仏峰(1,443m)に上がれば雲に昇ったように空の星も取ることができそうな気がしてくる。伽耶山は古くから「朝鮮八景」に選ばれてきており<擇里志>によれば山が高くて深く秀麗で、日照り、水害、戦争などが無くて安全な所だとされている。
尚州郡に属した伽耶山国立公園探訪コースは白雲洞探訪支援センターから出発する。探訪センターの向かい側にある萬物相コースは岩陵に沿って登山する区間で、伽耶山国立公園最高の稜線として知られている。探訪センターの左側にある伽耶山2コースは龍起谷を過ぎて西城齋を経て最高峰の七仏峰に至る区間だ。萬物相コースに比べて難しい区間が無いため初心者でも容易に登山の妙味を楽しめる。 伽耶山国立公園は探訪区間のほとんどが往復5時間以上が必要だ。そのためどの探訪路を選んでも12時前には登山を始めなければならない。日の短い冬は午前10時頃には出発してこそ安全に登山が終えられる。
多くの国立公園がそうであるように伽耶山国立公園もやはり平日には閑散としている。広い駐車空間は物寂しいほどがらんと空いている。平日に訪ねたほうが探訪センターの職員が登山客を更に親切にコースを案内できる。
「いらっしゃいませ。今日は霧が濃厚ですので萬物相屋コースより龍起谷コースのほうがよろしいと思います。萬物相コースは霧のために岩陵が鑑賞しにくいでしょう。」感謝の言葉を述べると、更に一言付け加えてくれた。
「龍起谷コースに上がって降りて来られる時、霧が晴れたら西城齋からサンアドムのほうにいらっしゃってみてください。400m程ですので大きな負担にはならないでしょう。」

西城齋から萬物相コースへ向かうサンアドムは萬物相の真骨頂を見ることができる最高のポイントとして知られている。やはり探訪センターの職員は神の一手を知っていた。
親切な案内に感謝して濃い霧に覆われた龍起谷に足を踏み出す。霧のため森には湿っぽい気運が充満している。湿度が高いために少しだけ動いても玉のような汗が吹き出してくる。申告式をするように軽く登り坂の道を越えるとすぐに白雲橋が小川を繋いでくれる。水音が騒々しくないほどに軽快に流れる。ところが橋に立って渓谷を見下ろしてみると渓谷の水はどこにもない。幻聴ではないはずだが…。見えなくても渓谷の水は伽耶山の深い谷に沿って絶えず流れているのは明らかだ。山道には緑色が四方を取り囲んでデコボコした石が足にぶつかる。石の上にコウライシャラノキの花がウェディングドレスを着た新婦のように横になっている。コウライシャラノキの花は6~7月に花が咲く。蒸し暑さに疲れて重さに打ち勝てなくなった頃に花が下に落ちて華やかな時期を終える。コウライシャラノキの花は椿の花に似ている。白椿花という別名も持っている。花を拾って触ってみると本当に白い椿の花のようだ。しばらく手に乗せていただけなのに樹液が手についてねばねばする。これも椿の花に似ているらしい。コウライシャラノキは肥沃で良い土地には振り向きもしないで根を下ろすのも大変な岩地帯に棲息する。何か罪でも犯して、このように苛酷な呪いを受けたのだろうか? 落ちた花びらを見ながら一歩一歩歩いていくうちにあれこれ雑念もぽとぽと落ちていく。岩がずっと続いていくのを見ればコウライシャラノキの花にも簡単に出会えそうだ。最後の白雲4橋を通り過ぎるとすぐに落石危険区間が続く。壁のように立っている大きい岩が人を威嚇でもするように高圧的だ。

「一つの目配せ」それは互いに対する「呼び掛け」だった
探訪センターを出発して2km余り。白雲寺跡を通り過ぎると岩が消えて木の階段が続く。道端にはスズタケと呼ばれる山竹がぎっしりといっぱい生えている。幾重もの茂みで覆われた山ではなかなか開けた空が見られない。濃い霧も一役を買っているのかぼやけた霧に包まれたように事物が鮮やかに見えない。このような道を800m余り更に上がると西城齋に至る。

西城齋は星州郡修倫面と陜川郡伽耶面を繋いでいる峠だ。一時、伽耶山城の西門が位置していた所なので西城齋と呼ばれる。伽耶山城は龍起谷渓谷を中心にサンアドムとトンソン峰の稜線を利用して築造された包谷式山城だ。大伽耶の首都であった高霊とわずか14kmの距離なので戦時には首都防御の要衝地として、また王が移動する時に留まる離宮として使われていた可能性が高いという。

西城齋は敷地が広くて多くの登山客がここで弁当を食べたりする。登山進行方向の右側に行けば七仏峰で左に行けばサンアドムだ。西城齋で一息ついて七仏峰に向かう。小石だらけで傾斜もまた急だ。鉄階段や木製デッキがなければ一般の人たちは絶対に接近するのが難しい難攻不落の要衝だ。伽耶山城が首都防衛の最後の砦であったことは明らかだろう。切り立った鉄階段に沿って上がるととても大きい岩の上に立つ。
風が吹く方向に従って雲と霧が踊るように山を越えていく。雲は目に見えない風に存在を与える。すなわち雲が無い時には風は姿として見えなかったが雲があれば存在を見せる風になった。互いが互いの存在を認識すること。詩人、金春洙は<花>でそれを「一つの目配せ」と表現した。私はそれを互いに対する「呼び掛け(calling)」と表現したい。風は雲を呼んであちらへこちらへと移動させ、雲は風を認識することによって山を越えることができる。
金春洙の詩<花>
私が彼の名前を呼ぶ前には / 彼はただ / 一つのしぐさに過ぎなかった /
私が彼の名前を呼んだ時 / 彼は私のところに来て花になった /
(中略)
彼のところに行って私も / 彼の花になりたい / 私たちは皆何かになりたい /
君は私に私は君に / 忘れられない一つの目配せになりたい

見えなくても実存するものたち
濃い霧と雲が最高峰の七仏峰をぐるぐる取り巻いた。時間が過ぎて霧がより一層深まる。湿式サウナに入ったかのように眉や鼻の穴に露のような霧が固まる。肺の奥深いところまで霧で一杯になった感じだ。ついでに200mの距離にある象王峰まで足を伸ばしてみる。やはり鉄階段を上がっては下りなければならない。

象王峰は牛の頭に似ているため牛頭峰とも呼ばれる。誰が名前をつけたのか分からないが「星の故郷」を夢見る星州のように命名者の切実な心が盛り込まれていないだろうか。
象王峰の向かい側には伽耶19名所である牛鼻井(ハングルでは、ウビジョン)がある。漢字での意味は「牛の鼻の泉」ということになるだろう。象王峰を牛頭峰とも呼ぶので牛鼻井の位置が牛の鼻の位置ぐらいになる。牛は常に鼻がしっとりとしていてこそ元気なように牛鼻井もいつも乾くことなく水が漂っているという。水はきれいではないがカエル五匹が遊泳を楽しんでいて真夏を清々しく過ごしている。どこで冬を送ってどのようにここまで上がってきたのか不思議で気になることこの上ない。

しばらく開かれていた空が再び雲と霧に包まれる。時間が経てば経つほど霧が更に深まる。もしかしたらサンアドムから萬物相が見られるかと思う気持ちで早歩きで下山を催促する。時々青い澄んだ空が見えるけれども期待とは違い霧は晴れずに濃くなる。それでも変わらない信頼がある。伽耶山の西側には徳裕山が聳えていて南側には智異山稜線が流れていることを。霧と雲が風の存在を表わすように、見えなくても存在を認識する時、私たちは互いに歩み寄って呼び掛けることができる。今も風が雲をコーリング(calling)するように。

● 旅行情報
△伽耶山2コース:伽耶山国立公園白雲洞探訪支援センター-龍起谷-白雲寺跡-西城齋-七仏峰-原点回帰(4.5km、2時間40分/片道)


△ 味自慢:白雲洞探訪支援センターの周辺に食堂が3、4ヶ所あるがほとんどが週末にだけ営業している。平日には修倫面役場方向に行けば食堂が幾つもある。メニューは漢方鴨肉、鶏の水炊き、山菜ビビンバ、清麹醤(チョングクチャン)、麦ご飯定食、海鮮とねぎのチヂミなどだ。
△ 見どころ:白雲洞探訪支援センターの駐車場を通り過ぎれば伽耶山野生花植物園がある。室内には野生花についての資料が展示されていて室外には季節の野生花がきれいに咲いている。屋上に作られた伽耶山の模型は特に萬物相を形象化して色とりどりで素敵だ。野生花で作った花びらのお茶をプレゼント用に購入すれば、より一層意味ある伽耶山探訪になるだろう。
△ 問い合わせ:伽耶山国立公園白雲洞探訪支援センター 054-932-3999、星州郡文化観光案内(文化体育課) 054-930-6067~8
△ アクセス:ナビゲーション「白雲洞探訪支援センター(慶尚北道星州郡修倫面白雲里1805番地)、または伽耶山野生花植物園で検索
△ 公共交通:星州市外バスターミナルから午前11時40分に白雲洞探訪支援センター方向に1本、高霊市外バスターミナルから午前8時20分、午後2時45分の2本が運行される。所用時間はそれぞれ1時間余りだ。